1990年代から2005年までのインディーポップの状況
インディーポップにかんする情報は多くない。さらに歴史的な視点で信頼性のあるものと条件をつけると数えるほどしか残らない。ここではそのひとつ、アメリカの音楽メディア「ピッチフォーク」に掲載された2005年10月24日のニツー・アベベ Nitsuh Abebe(@ntabebe)の記事 Twee as Fuck – The Story of Indie Pop を参考に、インディーポップというジャンルの初期の状況を鳥瞰的に見てみよう。
Twee as Fuck – The Story of Indie Pop

著作権的な問題があるのでなるべく翻訳は少なめに済ませたいのだが、冒頭は重要なので逐一訳してみる。
インディーポップは単に「インディー」ということではなく、「ポップ」であるということなのだ。そのことに気づいている者、あるいは気にしている者はあまり多くない。けれどもインディーポップのファンがそれを知っていることは確かだ。
インディーポップのファンは自分たち自身の呼称「ポップキッズ」「ポップギークス」と、自分たちが聴く音楽の呼称「p!o!p」「トゥイー Twee」「アノラック」「C-86」を持っている。
伝説的なバンド「タイガー・トラップ Tiger Trap」「タルーラ・ゴッシュ Talulah Gosh」「ロケットシップ Rocketship」や、伝説的なレーベル「サラ Sarah」「バスストップ Bus Stop」「サマーシャイン Summershine」もある。
ほとんどがファーストネームで呼ぶスターもいる。スティーヴンとアッジ、キャシーとアメリア、ジェンとローズ、ブレットとヘザー、それにカルヴィン。
それに自分たちのジン『Chickfactor』、ウェブサイト「twee.ne」、メーリングリスト「Indie pop List」、美学「TWEE AS FUCK」、フェスティバル「International Pop Underground」、アイコン「手描きの子猫」、ファッション関連の小物(バレッタ、カーディガン、子猫のTシャツ、TWEE AS FUCKと書かれたTシャツ)、内輪のジョーク(「Tullycraft」の歌詞とTWEE AS FUCK)がある——要するに、独自の文化を持っている。
インディーポップのファンは、カート・コバーンがかつて自分たちの仲間だったことを憶えている世界で唯一の種類の人々であり、たとえば「ベル・アンド・セバスチャン」のような個人的熱狂の対象のひとつが、より広いインディーミュージックの世界に浮上していく瞬間に立ち会っても寛大な態度を示した。
1990年代半ば、アメリカにはそのような若者が山ほどいた。かわいいものすべてに恋する幸せなポップマニア、小さなレーベルからリリースされた7インチシングルを聴き、片思いについて歌を書き、自分たちの音楽が周囲の全員から吐き気がするほどかわいく(キュートで)、アマチュアっぽく、女の子っぽい(ガーリー)であると思われていることに大きなプライドを抱く者たち。
この文はインディーポップのファンがそのようになるまでの解説であり、インディーポップ計画の歴史の部分的説明であり、その意味についての初心者向けガイドである。
アベベの文のこの冒頭部分を読んだだけで、インディーポップのファンの涙腺はゆるむかもしれない。アベベは読者のためだけに書いているのではない。自分のためにも書いていることがここから明瞭に見てとれる。
そしてこれから先の理解を容易にするために前もって Twee という語を説明しておこう。アベベがあげたみっつのバンドの音楽は英米ではトゥイーポップ Twee Pop と呼ばれている。
トゥイーポップとインディーポップは内容面でかなり重なる。Twee という語にはいくつか意味があるのだが、Twee Pop の Twee は幼児が sweet の語を発音したときの音だと言われている。ようするにトゥイーポップは蔑称に近いもので、しかし、しばしば見られるように蔑称がそのままジャンル名になっているのだ。
そしてインディーポップのスローガンである Twee as Fuck についても説明しておくと、ニュアンスとしては「トゥイーってのはファックの意味」という感じではないかと思う。インディーポップの根っこにあるのはパンクやポストパンクなのでほんの少し攻撃性も持ちあわせているのだ。
そして名前のあがったみっつのバンドをリンクしておこう。いずれもインディーポップの塊みたいなバンドであり、重要バンドである。
Puzzle Pieces · Tiger Trap
Just a Dream – Talulah Gosh
Rocketship – I Love You The Way I Used To Do
続く